Heat Insulation 省エネルギー_1

ネット・ゼロ・エネルギーを実現するためには、躯体外皮や設備の省エネ性能の向上が不可欠です. 計画の初期段階から建築物全体のエネルギー消費量を試算して、あらゆる省エネ技術の採否を検討することが重要です.

1. 省エネルギー基準の改正

平成28年、『建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律』(以下、「建築物省エネ法」という)が施行されました.建築物省エネ法は、東日本大震災以降の社会経済情勢の変化に伴い建築物におけるエネルギー消費量が著しく増加していることを背景に、省エネ法から建築物部門を独立させて、建築物の規模の応じた規制措置と省エネ性能の向上を促す誘導措置により省エネ対策を抜本的に強化することを目的としています.
2020年(平成32年)までに全ての新築住宅・建築物について段階的に省エネ基準への適合を義務化するというロードマップの下、建築確認手続きと連動した適合性判定制度や省エネ技術を評価する大臣認定制度、省エネ性能に優れた建築物に対する表示制度及び容積率の特例等が創設されました.建築物省エネ法におけるエネルギー消費性能基準(以下、「平成28年基準」という)は平成25年基準と同等の水準となっています.引き続き平成11年基準相当の外皮の熱性能と、標準的な条件のもとで使用される一次エネルギー消費量※を基準値以下に抑えることが求められます.なお、国土交通省は新築におけるエネルギー消費性能の実態を踏まえて定期的に制度や基準を見直すことを表明しています.同時に、新技術の開発や低コスト化を促進するために基準強化の時期や内容をあらかじめ明らかにすること、現行の省エネ基準では適合が難しい伝統的構法について気候風土・地域性に合った建て方を評価できる基準を策定すること、など今後の取り組みの方向性を示しています.
住宅・建築物の省エネルギー対策では、あらゆる省エネ手法の採否を検討することが重要です(P015,図-3,4).独立行政法人建築研究所等が公開している各種評価ツールを援用して、計画の初期段階から建物全体のエネルギー消費量を試算することが望まれます.


※ 建物では、電気、灯油、都市ガスなど、それぞれ異なる計量単位(kwh、リットル、MJなど)でエネルギーが使用されています. これを化石燃料、原子力燃料、水力・太陽光といった一次エネルギー消費量に換算することで、建物全体の総エネルギー消費量を同じ単位(MJ、GJ)で評価できるようになります.


図-1:省エネルギー基準の地域区分 表-1:各種省エネルギー関連基準の推移

[省エネルギー基準のポイント](表-3)

1) 一次エネルギー消費量基準

設備の性能を個別に評価するCEC(エネルギー消費係数)は、すべての消費エネルギーを合算する一次エネルギー消費量へ変更されました. 外皮の熱性能を空調・暖冷房設備のエネルギー消費量に反映させ、太陽光発電等の創エネ効果をエネルギー削減量として差し引くことにより、建物全体の省エネルギー性能を評価する基準となりました. 従来、外皮の熱性能でのみ評価されてきた住宅についても一次エネルギー消費量基準が導入され、住宅・建築物の評価方法が一本化されました.


2) 住宅の外皮基準

建物規模や形状の影響を低減するために、外皮の熱性能を評価する指標が、外皮表面積あたりの熱損失量( UA値)と日射熱取得量(ηAC値)に変更されました(図-2). 地域区分は、従来のトップランナー基準に対応した8区分に改められ、建築物と共通のものとなっています. なお、地域の気候特性を踏まえて、寒冷地及び温暖地ではUA又はηACの基準値を設定しないなど基準の合理化が図られて います(図-1, 表-2).


3) 建築物の外皮基準

従来のPALの考え方を踏襲しつつ一次エネルギー消費量と計算条件を統一するために、外皮の熱性能を評価する指標がPAL*に変更されました. PAL*では地域区分や建材の物性値は、住宅・建築物で共通のものに改められました(図-1).また、室使用条件や建物用途が細分化される一方、ペリメーターゾーンの算出方法が簡略化され規模補正係数が廃止されるなど、評価方法の見直しが行われました.


2. 開口部の省エネ対策

外皮の熱性能を向上させるためには、開口部の省エネ対策が重要です.サッシやガラスで構成される開口部は、壁や屋根に比べてはるかに熱貫流率が大きいため、ペリメーターゾーンの熱負荷に大きな影響を及ぼします. 一方、自然採光や自然換気による省エネ効果とともに、何より快適で健康的な室内環境のために開口部は大切です. 熱負荷を低減させつつ可能な限り大きな開口部を設けるためには、サッシやガラスの断熱性向上と、庇やルーバー等による日射調整の工夫が重要です.

●サッシの断熱性を高めるには

断熱性能の高いサッシを使用するほか、サッシの室内側または室外側に空気層を設ける方法も有効です(表-2, 3).

  1. 断熱性の高いサッシを使用する.
    [ アルミサッシ]…最も一般的なサッシ
    [ アルミ熱遮断構造サッシ]…アルミサッシ内部の接合部に、熱を遮断するための樹脂などを挟み込んだサッシ
    [ アルミ樹脂複合サッシ]…室外側はアルミ製、室内側は樹脂製による特殊な構造で断熱性能を高めたサッシ
    [ 樹脂製サッシ]…樹脂の熱伝導率の低さを活かした、断熱性の高いサッシ
    [ 木製サッシ]…木の熱伝導率の低さを活かした断熱性の高いサッシ
  2. 空気の出入りを抑制する…サッシの高気密化を図る.
  3. サッシの室内側かまたは室外側に空気層を設ける.
    室内側…二重窓(室内窓)・カーテン・ブラインド・障子など
    室外側…二重窓(ダブルスキン)・雨戸・シャッターなど

●板ガラスの断熱性を高めるには

方位や室用途を考慮して、適切な断熱性能と遮熱性能を設定することがポイントです. その他、開口部の省エネ対策について以下の注意点があげられます.

  • 開口部の断熱性能は、大きな面積を占めるガラスの性能に大きく影響されます. 適切なガラスの設定がもっとも重要です.
  • 室内外の温度差が同じでも、風が吹いている場合は開口部から流出する熱量が増加します. 強風地域や卓越風向の開口部などでは、断熱性能の設定を上げる必要があります.
  • この構造は結露対策の面でも重要です.開口部廻りの断熱性能を向上させるために、サッシ枠の断熱材と躯体の断熱層が連続する構造とします. この構造は、結露対策の面でも重要です.
表-3:性能基準(計算ルート) 表-2:基準値の設定 図-2:住宅の外皮の熱性能基準 表-4:断熱性の等級
図-3:省エネルギー対策の例 図-4:ゼロ・エネルギー住宅のイメージ